琥珀色の雨にぬれて(17年雪組)

9月9日(土)18:00公演@相模女子大学グリーンホール

 私の好きな望海風斗はブロンソン・スミスである。
 蘭寿とむさんの退団公演『ラスト・タイクーン』において、ヒロインである蘭乃はなさんの恋人という敵役ポジションにいながらアル中DV自殺幇助等あまりのクズっぷりにライバルの土俵にも上がれなかった稀代の(?)悪役だ。宝塚には王子様が山のようにいるが、こんなクズ男は中々お目にかかれない。望海さんがトップになったあかつきには、ぜひとも今までになかったようなダーティヒーローをやって欲しい、相手役の真彩希帆さんは純粋な少女の役などが似合いそうだから、ジゴロと初心な市井の娘の話にしてくれなどと勝手に思っていた私は『琥珀色の雨にぬれて』の解説を読んで絶望した。「戦火を潜り抜けても純粋さを失わない貴族の青年クロードと、魔性の女シャロン」、なぜこんなにトップコンビの持ち味と違う作品をわざわざ引っ張りだしてきたのかと。

などという懸念は杞憂に終わり。
 マヌカン、サロネーゼ、ダンサー、ジゴロ、アーティスト、現代的で華やかな人々への気後れを見せつつもシャロンへの好意を素直に口にするクロードは真面目で純粋な青年貴族そのものだったし、快活さの中に誰にも心を開かない鉄の理性を秘めたシャロンは確かに魔性の女だった。そして美しいだけでなく軽薄に収まらない知性を覗かせるジゴロのルイ、世間知らずで純真な貴族の令嬢フランソワーズ。演者の持ち味というよりは芝居でそう見せる技巧に冒頭から戦後のフランスに引き込まれ、望海さんのトレンチが拝めればいいや、などと能天気に構えていたはずが気付けばクロードとシャロンの物語に引き込まれていた。

 クロード@望海さん。私はずっと唇の片端を持ち上げる笑い方の邪悪さが好きだったのだが、青列車の展望台でのそれは泣き出しそうな笑顔で、そんな表情があったのか、と本当に驚いた。思うにこの人は本来クセや個性の少ない役者で、ゆえにクセの強い役を演じると役の個性が色濃く出てしまうのではないか、と。
あとは贔屓目で見てもロングトレンチが似合うスタイリッシュな女優ではないと思っているので、青いスーツが一番似合っていた気がした。ショーでも青い衣装が似合っていたので、単に青色が似合うのかも。

 シャロン@真彩さん。細いのに肩や胸がしっかりしていて、ドレス姿がゴージャスに見えるのがとても良かった。彼女がよくやるはっとした表情の後目を細めて笑う癖、シャロンとは違うと思っていたので森の場面でされたとき実はがっかりしたのだけれど、見終わってみればあれは、朝に弱いシャロンが珍しく上機嫌でクロードが妖精かと思うほど崇高な美しさを湛えていた、シーンであったので別段不自然でもないし、その後は気にならなかったので意図的な芝居だったのだと気付いて、感服した。

 ルイ@彩凪さん。ジゴロ達の中で、最も切れ者という風格がある。ルールに反し本当の恋をしてしまったけれど、流されも溺れもしない。物語が進むにつれてわかっていくルイの性質をきちんと予見させてくれる忠実さが見ていて気持ち良かった。そしてるろうに剣心の武田観柳があったからこそ言える、これは彼女の演技力だ、と。色々言ったものの、オールバックのジゴロ彩凪翔はひたすらにカッコイイ。

 作品自体については再演ものながら全くの初見なので、すでに再三言い尽くされているだろうことを書きますがご容赦を。
 たぶんシャロンはクロードのワルツの人生を通り過ぎていったタンゴだ。見終わった後にやや冷静なフェミニストかぶれの私がこれは男のロマンの話だ、と思った。貴族として申し分のない身分に生まれながら、国に尽くし(軍役)社会的成功を得て(航空事業)家の主人となる(貴族令嬢との結婚)、その過程に命をかけた冒険(運命的な恋)がありはしても、決して命を落としてはならず通り過ぎなければならない。シャロンと結ばれることは筋書きの外側で、既にあってはならないことと決められている。今日は列車に乗らなかったけど、いつか乗るかもしれない。でも、フランソワーズが本当にクロードを捨てることは恐らくないだろう。フランソワーズはそういう役割の人なのだ。時代錯誤の感は否めないけれど物語として見る分には面白いし、クロードの視点を持てる人なら楽しめると思う。なぜなら彼の中で、タンゴはもう樹脂に閉じ込められたきれいな思い出になってしまっている。

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