見せてやろうぜ人生劇場。
私たちが勝手にみる宝塚や望海風斗への夢、彼女は舞台の上でそれを鮮やかに裏切って、想像していた以上の「夢」を見せてくれる。今まで何度も見せつけられてきたのに、本当に何度も驚かされてしまう。
とても幸運なことに劇場で観る機会を得ることができたのだが、ライブビューイングでも本当に素晴らしい体験をしたので、全部あわせて感想を書いておきたい。先に言いますが大興奮してるし夜中なのでポエムです。
最初に観たのは宝塚大劇場の千秋楽のライブビューイング、真彩希帆ちゃんが特別出演する最初の回。極力事前情報を見ないで行ったので、英語アナウンスやだいもんコールに思わずマスクの下で笑ってしまう。
それでもやっぱりあのド派手なポスター衣装そのままで望海さんが登場したとき、観ているのはスクリーンなのに今この瞬間宝塚で望海さんが舞台に立っているんだ、と思って涙ぐんでしまった。これも幸運なことに、『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』の東京公演を観ることができたのだが、それ以来と考えると本当に途方もないほど長いあいだ時間が止まっていたことを実感して、youtubeやスカイステージでの望海さんのメッセージ、コンサート中止の発表、退団日の延期など、そのあいだに起きた宝塚と望海さんを取り巻く色々が走馬灯のごとく過ぎっていったので。
次の瞬間、もしかしてZUKA!ZUKA!って歌ってる……?と気づいてしまってからはもうダメでここで1回目のサイトー……!という気持ちになる。いや、開演前の例のイラストと吹き出しを見た瞬間が1回目なので2回目である。第一声そこのかわいいお嬢さん、やっぱどこかおかしいのにすごくいい笑顔で、パワフルな声で歌う望海さんにまた涙ぐんで、思わず手拍子しそうだった。
いつだって僕らは、これは劇場で聴いた記憶が強い。リリースは2012年、私はたぶん世代といっていい、当時からしっかり捻くれていた私が斜に構えて見ていたいきものがかりらしい清廉な歌詞が今はもう胸に痛いくらいに突き刺さって、歌い上げる声がすごく気持ち良かった。
It’s a Beautiful Day、Shape of My Heartはうってかわって大人の男役全開ながら、芝居の役抜きのこういう歌は珍しくて新鮮で純粋にかっこいい。
She Bangsの彩凪翔万華鏡は大正解だし、聴くたびに歌が格段に上手くなっていてこちらも正統派男役のかっこよさを存分に堪能した。彩凪さん二番手といえばプレお披露目の『琥珀色の雨にぬれて』、『”D”ramatic S』。大事な公演で大事な立場を危うげなくこなす彩凪さんが大好き。
息つく間もなくやってくる茶番劇の気配。こういう一般人っぽい衣装を着るとタカラジェンヌが規格外の存在であることを思い出す。スーツの羽織夕夏ちゃん細さと足の長さに毎回びっくりしていた。そしてあんまりお顔が見えないけれど私にはわかる、あの圧倒的スタイルと動きのキレは沙月愛奈さんに違いないなどと思っていると、望海さんがいかにも野暮ったい感じで登場してクズ男ソングを爽やかに歌い上げる。わが心の故郷ラ・エスメラルダからウインクでさよなら……!これが生でもう一度聴けただけでここに来た甲斐があったというものである。このくだりあと5回はあります。
なんの脈絡もなくバブリーな空気が流れ、初回ライビュこそ戸惑ったものの2回目以降は待ってましたの気持ち。正直キューティーハニーとダンシングヒーローしか曲は分からなかったのだが、衣装も歌も後ろの映像も全てがうるさくてハッピーでバブリーでどうかしている。特筆すべきは天咲礼愛ちゃん、千早真央ちゃん、麻花すわんちゃんのはっちゃけ具合!若さを振り切って考えうる限りのバブルとセクシーを全力投球してくる下級生三人娘、ほんとうにほんとうにかわいくって大好きになってしまった。いい意味で宝塚らしくない若い女の子っぽさがあるのが「ライブ」であるこの公演にぴったりだったと思う。
そして野々花ひまりちゃんのかわいらしさとピンクの衣装をいい意味で裏切る迫力の歌声に驚かされて、スター性の片鱗を垣間見た気がした。
望海さんはさすがの貫禄でティアドロップのサングラスにIDを咥えて不敵な笑み。ァギャング~やマフィアなどの反社会勢力役で鍛えた口の端を片方だけ上げるあの笑い方がこんなに活きたことが今まであっただろうか?サングラスをずらすあの瞬間、ファントムのフィナーレでMélodie de Parisを生き生きと歌う望海さんを見たときと同じ感想が頭を過ぎる。望海風斗の顔が好き。あどけない目なんて全然していない。
物議を醸したあゝ無情。これは宝塚楽が一番セクシーで、東京に来てから男役が強くなった気がする。ケバさがいいでしょって言わせたい。その派手な顔が好きです。
彩凪さんで愛は勝つ。これは聴いた人100人中100人が確信した。愛は勝つ、と。彩凪さんは本当に歌が上手くなっている。2階席、あるいはそのもっと上を眩しそうに見上げる目線がとてもあたたかくて、表情のひとつひとつに愛があって、やっぱり涙ぐんだ。
かわいいおべべで出てきて速攻箱詰め消されるトップスター、望海風斗。東京楽で明かされた、箱に入るのにお気合の雄叫びがいるという事実。下級生に真似されてるの可愛すぎる。配信を観ながら、驚いて声が出ちゃう真彩ちゃんも可愛い。
ここまでで胸焼けがするくらいの要素が詰め込まれていて、さあ、と思ったところで正統派黒燕尾。娘役もシンプルなダルマが却って潔く美しさを引き立てていた。東京楽の今日は神聖といって差し支えないくらいみんなが毅然としていて、バックのNOZOMIの文字すら神々しく見えた。こんなものを見せられたら前半のしっちゃかめっちゃかも全部持っていかれてしまう。このあとまたしっちゃかめっちゃかするけど。
ノゾミ、で天を仰ぐ望海さんの眉間のしわにまで物語を感じて本当にすごいものを観たな……と放心している間に一幕は終わっていた。
やっと半分の二幕。アヤナギ先生初見の衝撃は忘れられない。彩凪翔が美人だから何しても許されると思ってないか?最初で最後のふーこちゃんの衝撃も忘れられない。これは真面目な話、ふーこちゃんの雑な髪型もスカートの長さも、男役の女装は面白くあるべき、みたいな男役が完成されているからこその伝統の笑いを尊重した結果だと思っている。誰よりも足首が細いのはちょっと引いた。
ファンがトップ就任以来悩まされ続けてきた、不幸がち、死にがち問題を公式にネタにされる望海風斗。大きな声では言わないがパブサしてると思っている。でも決断の刻を一部でも歌ってくれただけで、ひかりふるの亡霊は成仏した。
Home、You are My Own(ver.南部)、またエリックに会えるなんて。バスタブで二人だけの世界へ旅立つ望海さんが、次回作は貧乏ではないとは言ったが不幸ではないとは言っていないのを未だに不安に思っている。
このあたりから記憶が混濁しているのだが、真彩ちゃんが出てきたときの胸の高鳴りははっきり覚えている。情感たっぷりのYou Raise Me Up。望海さんも真彩ちゃんも英語が聞き取りやすいので、否が応でも歌詞を噛みしめてしまう。まだ何も話していないのにこのYouが望海さんのことなんだろうな、と思う。でもわれわれにとっては真彩ちゃんだし望海さんだ。
最初は映画館で観てもしょうがないしな、と思っていた。でも、別のところにいるとしても今この歌を聴けて良かったと心から思ったそんな瞬間。真彩ちゃんの歌には上手い以上の心を揺さぶる力がある。
輝く未来は待望のデュエット。こんなに多幸感のあるデュエットが今まであっただろうか。正直目が霞んできちんと観れていなかったけれど、プリンセスがそこにいた。
MC、無観客ディナーショーを経た真彩ちゃんが客席の拍手に思わず涙を流してしまったところで私の涙腺も決壊した。いや、映画館中が嗚咽していたと思う。ずっと涙ぐんでいたのだけれど、ここへきて本当にマスクが濡れるまで泣いた。そしてすぐに元気いっぱいの真彩ちゃんになって、望海さんをバシバシしながら楽しそうに話しているのを見て、なんて強い人なんだろうと目を瞠った。強くて美しい。この日まで客を前にしていなかったのに、無駄の一切ないすらりとした背中と肩が本当に綺麗で、まだちょっと垢抜けない花組の下級生時代、ブリネクの共演の頃を思い出して、その陰にあっただろう努力に思いを馳せたりした。
そして何より、私が踊る時。やってみたい役が『エリザベート』のエリザベートではなく、『ファントム』のクリスティーヌ、望海さんはエリック。それがこのコンビのアイデンティティだと思う。でも私はどこかで望海さんが、宝塚の名作たる『エリザベート』を、できるならトートをやってみたいのではないか、とも思っていた。だからこそ色々な企画でその楽曲を選び、歌ってきたのではないか、と。私はトート化粧と衣装の望海さんに魅力を感じなかったので上演の願望はなかったが、望海さんでこの名曲を聴いてみたいという気持ちは確かにあった。FNS歌謡祭での闇が広がる、Giftのエリザベートメドレー、井上芳雄さんとの闇が広がる(ルドルフ)、どれも素晴らしく、エリザを聴けて良かった、そう思ったことを覚えている。でも私が踊る時を聴いて、私はやっと心の底から、『エリザベート』を聴いた、と思った。望海トートの前に初めてエリザベートが現れたからだ。イントロが始まった瞬間の張り詰めた空気、背中合わせの二人の姿は忘れられない。衣装も髪型もメイクも違うし、セットもない。でも確かにトートとエリザベートがそこにいた。もしも望海さんが『エリザベート』に心を残していたとしたら、それがなくなっているといいななどと勝手に思っている。
Bパターンではひかりふる路が聴けたことが本当に嬉しかった。これが生でもう一度聴けただけで来た甲斐があった。突然の自分語りだが当時の私は激務のあまり抑鬱剤を飲みながら働いていた部署から異動になったばかりで、ひかりふる路のイントロで望海さんがせり上がって来た途端に救いを見たような気持ちになってやっぱりぼろぼろ泣いていたので。
Aパターンは千秋楽しか観ていないというのもあるが、思い入れのあるだろう曲を今の望海さんが歌っている、その事実だけで胸に迫るものがあった。私がファンになる前の作品が多く、特にチュシンの星のもとには映像ですら見たことがなかったのだが、期せずして今の情勢に響く歌詞と力強い歌声で一番印象に残った。 そしてここまで潔い花組メドレーができるのは決して花組への未練なんかではなく、雪組の自分と宝塚の全てを愛しているからなんだろう。
Music is My Lifeの弾き語り。耳に入る音全て望海さんが奏でているという贅沢。躍り狂いながら歌ってもぶれない声帯の望海さんが静止して歌うとき、ものすごく澄んだ声になる。声の伸びとピアノの伴奏がぴったり合う心地よさ、こんなMusic is My Lifeが聴けただけでここに来た甲斐があった。瞼を伏せた横顔とかピアノを弾く指とかペダルに乗っかった足の爪先まで全部が美しくて、ずっと見ていたいし聴いていたいような時間だった。
リクエスト曲はひとかけらの勇気、かわらぬ思い、愛の旅立ち。とにかく聴かせたいということが伝わってくる曲名と出典だけのシンプルな背景、やや暗めの照明。
ブリネク最終回で言ったとおりに、期せずして節目節目でひとかけらの勇気を歌っている望海さん。宝塚で歌うのは最後だろうという万感の思いがこもった歌声。
愛の旅立ちは東京楽の直前のトークで大階段を背負って歌う気概について語っており、その後で聴くとトップスターの矜持を感じるようで本当に感慨深かった。退団を決めた人の澄んだ輝きのようなものを初めて感じた気がする。
怒濤の宝塚メドレー。聴きどころは間違いなくBLUE MOON BLUEより、ENDLESS DREAM。
ここで冒頭に戻ると、望海さんの本質的魅力は本人の物語性にあると思っている。人生劇場だ。望海さん自身は間違いなく最初から「持てる者」なのに、彼女から見えてくるのは「夢を叶える物語」で、昔憧れたスターの曲を自分のコンサートで歌うという、その最も象徴的な場面がここだ。望海さんの中で宝塚がずっと夢であり続けていられるのは、つまり望海さんをこちら側に引き留めているのは、宝塚が好きというファン精神の一点のみで、しかしそれ故に私たちは望海さんに夢を見る。一ファンだった少女が憧れのステージに立ち、頂点に上り詰め、今その舞台を降りることを決断した。なんというドラマだろう?
それを彩るような真彩希帆ちゃんとのコンビ結成とファントム上演は私たちファンの多くを喜ばせ、望海さん、よかったね!そんな気持ちにさせた。
それが最後の最後にこのような、間違いなく世界史上に刻まれるであろう厄災に遭うとは本当に想像もしなかっただろう。真っ先に不要不急と見做されたエンターテインメントが再開されたとき、つまり私が半年ぶりに劇場行ったとき、期せずして私はこの公演に退団前コンサート以上の意味を考えたし見出した。望海さんはどうしてもわれわれ市井の人のドラマを背負わされる運命でもあるのだろうか?
そういうことを一瞬のうちに考えてしまうようなENDLESS DREAM。もうこの歌がドラマで、人生だ。来た甲斐があった。
夢をあつめて。
恐らく変えようと思えばもっと力強く望海風斗として歌えたところを、舞台上で物足りなくない程度に抑えて極力原曲の歌い方を残しているような、これに関しては御本尊ナオトインティライミさんの力強く繊細という表現をそのまま借りたい絶妙なバランスに唸ったアンコール曲。これを聴けただけで来た甲斐があった。私はこれを勝手にナオトインティライミさんへのリスペクトだと思っていて、自分のホームである舞台だからといって自分に寄せるのではなく、彼の作品としての楽曲を歌い切るプロとしての気概の表れだと理解している。
一方で矛盾するようだが、こういうことができるのは他でもない望海さん自身が、自分を一宝塚ファンであるのと同様に普通の人のように見做しているからじゃないかとも思っている。その認識が彼女の能力を普通なからしめているならこんなに稀なスターはいないだろう。
退団は本当に寂しいけれど、舞台をやりきることがこんなにも有り難くなってしまった世の中で、最初にそれをやり遂げなければいけない望海さんをこれからも全力で応援していきたい。
NOW ZOOM ME本当にありがとう。