盗賊と宝石、という副題を見たときからこれは絶対に好きなやつだ、と確信していた。プリンスでもヒーローでも、紳士ですらない、盗賊。(生田先生のことだから望海さんが宝石ということもあり得るのではと思ったが)望海風斗にぴったりのモチーフではないか。そして背伸びしている頑張りが少し見えていた『琥珀色の雨にぬれて』のシャロンから、オペラ座の歌姫やブロードウェイの大スター、ハリウッドの大女優を経て紛うことなき雪組の皇后にして女帝(と敢えて呼びたい)となった真彩希帆ちゃんはまさしく宝石。なにもかも持てる人であるはずの望海さんは、何故か追い求める人であるときとても魅力的でエネルギッシュだ。
砂時計のセットの下、キャラバンの一隊として登場し最初の一曲を歌う彩凪翔さん。自分が物語の中にいることを知っている観測者がこんなに上手い人はいない。ストーリーテラーや狂言回しほど観客寄りではないが、物語にはどこかで一線を引いている登場人物。今回のfffのゲーテにも同じ立ち位置という印象を受けた。手には青い宝石の首飾り。娘役たちの砂色のドレスも美しく、宝石を引き立たせているかのよう。
おもむろに砂時計のセットが上がっていき、やはり砂色の布が繊細なドレープを作っていく。砂時計から落ちる砂、退団演出のようでこんなところでもほろりとしてしまうが、この後ろにいるんだろうな、と思うと心拍数があがる。案の定、雷鳴のような音が響いて幕が落ちると、黒ずくめの男の後ろ姿が!黒いターバンに真っ赤な口紅、私の見たかった望海風斗がいた。奪い、奪え。最初から物騒だ。やはり盗賊だった。ベートーヴェンも正直かっこよかったのだが、鬘を壮年仕様(?)にしてからはやや老けた感もあるので、このギラギラ感が異常にカッコよく見えた。エリックからの傷なしフィナーレ、吉村貫一郎からのMR、ワンスのヌードルスおじさんからのフィナーレなど、振れ幅の大きさに毎度毎度息が止まりそうになっている気がする。
なんやかんやで盗賊が宝石を奪うと、様子が一変。かつて船長が現れたときのように、真彩ちゃん扮する宝石が舞台の上から下りてくる。堂々たる貫禄と凛とした佇まいの美しさ、間違いなくダイヤモンドの権化。青いドレスの裾のドレープも美しく、言うまでもなく迫力の美声。遠くからでもわかるくらい目元が青くキラキラとしていてとてもかわいい。舞台に下りてからもドレスを綺麗に捌きながら歌い踊る真彩ちゃん、抜群の安定感。一方望海さんはちょっと不敵な感じ。赤い口紅があまりにもセクシー。これ、私が見たかった盗賊と宝石だ……と思いながら大満足のプロローグ。組子の銀橋渡りはスターの大渋滞状態でとにかく楽しかった。
ここまで1000字だけど大丈夫だろうか?さききわちゃんのダンスシーンはちょっと割愛しますが、絶対青い宝石に呪われると思ったのにハッピーエンドのままセリ下がり、新トップコンビの光属性の強さが眩しかった。
バザールの場面では初見時望海さん登場を見逃す痛恨のミス。気付いたらドンジュアン風ヘアーの人が泥棒したり引きずられたりしていてウワードンジュアン だ!と思って正直なにが起きているのか全然見ていなかった。気付いたら彩凪翔に手錠をかけられており、私の妄想が現実になったのかと思ってオペラ二度見した。手錠て。2回目以降はフードのところからオペラロックオン。諏訪さきさん、彩海せらさんともちゃもちゃわちゃわちゃしていてずっとかわいかった。手錠が金でやたら鎖の主張が強いの、本当にありがとうございます。連行されていくところはアドリブなのかな?貸切ばかりで標準がよくわからず。
千夜一夜、朝美絢さんの王が美しすぎる。どうしてこんなに人を侍らせるのが似合うのか。そして娘役さんたちの細さ……沙月愛奈さんがやっぱり圧倒的にスタイルが良くて、ウエストのくびれと無駄の一切ない二の腕が美しすぎて憧れる。真彩ちゃんももちろんきれい。一人だけ青いお衣装なのがよく似合っていた。
バザールの黒いお衣装を脱ぎ捨てたっぽい望海さんが完全な手錠姿で登場すると、突然の奴隷宣告。トップスターで退団公演なのに盗賊で囚われの身で奴隷。真彩ちゃんと惹かれ合うっぽいも朝美さんが許してくれないっぽい。杜月笙っぽい立ち位置ですね。(フラグ)
なんやかんやあり奴隷は難を逃れたようなのだが、鎖が切れた手錠はまだ腕についたまま。手錠……望海風斗の三種の神器よ。
インドの神々の世界へ誘ってくれる星南のぞみちゃんと夢白あやちゃん、あまりにかわいい。真彩ちゃんはこの頃皇后として君臨しているようなので、好対照のかわいさ。言うまでもなくどちらも好きです。
例の、銀橋と舞台の間にある謎の階段の上で美声を轟かせる望海さん。ここも貸切ネタだったので標準はいまいちわからず。でもなんかとにかくめでたい。ザ・インドミュージカルな曲と振りがとにかく楽しい!望海さんも真彩ちゃんもみんな楽しそうでそれが嬉しい!なんて言ってるかわからないけど全然オッケー!ありがとう宝塚、ここが神の国だ!!!
彩風咲奈さんと望海さんのダンスバトル(そう書いてあった)、画面の強さが尋常ではない。望海さん、こういう変な雉子羽根背負わされがち。かわいい。被り物の第一印象がコレだったのでそのあとずっとそうとしか思えなかった。かわいい。
このあと中詰めでシルクロードを歌ってくれる。望海さんの「運命のアラベスク」、重厚感とロマンが詰まっていて好き。「美しき悪夢へ」、なるほど、宝塚はよく夢の世界と称されるけれど、確かに望海風斗は美しい悪夢の方がよく似合う。fffも幸福一辺倒の人生賛歌ではなかったが、シルクロードにも同じ気概を感じる。夢夢しいだけではない、清濁合わせ飲んだ美しさ、光も影も織り込まれたアラベスク。ぶっちゃけここの望海さんの衣装は私的にハズレなのだが(真彩ちゃんの赤いお衣装は好き)、それでもこのシーンはシルクロードで一番好きだ。宝塚らしい力強い華やかさに溢れていて多幸感が押し寄せてくる。退団公演であることを思うとき、こういう明るくて華やかなシーンの方が却って寂しさを感じさせたりすることまで含めて、やっぱり好きなシーン。
チャイナな彩風さんの登場に上がる心拍数。スタイルが抜群によくて長い上衣がよく似合っている。中国……いいなあ望海さんでも見たかったなあ、などと呑気に眺めていたので、こちらも初見時望海さん見逃す痛恨のミス。気付いた時には中心で踊っていて、気付いた瞬間体温が3度くらい上がったと思うしオペラグラスが曇った。2回目以降はフライング気味でロックオン。劉衛強じゃん…………。生田大和初演出にして、望海風斗のダークサイドを開花させた(と勝手に思っている)記念碑的作品、『BUND/NEON上海—深緋の嘆きの河—』。この頃宝塚から離れていたので、スカステ視聴しかしていないにも関わらずブロンソンの次くらいに私の好きを占めている男。ちなみにブロンソンも観たことはありません。私はファン歴が浅いので、すぐに観れなかったことを悔やんでいる過去作品の面影を求めてしまう。そして生田先生は(自分の演出作品に限り)それをかなりの確率で叶えてくれる、と勝手に思っている。シルクロードが時を超えるの、これがやりたかっただけなんじゃないかと邪推してしまう。それでもいいよ。
劉衛強2021、似ているのはビジュアルだけで表情もダンスも全然違うのだが、どう考えても劉衛強である。初見は前情報なしでと決めていたので、帰ってからプログラムを読んでひっくり返った。ほんとに劉衛強じゃん!?順当に杜月笙の跡を継いでいればこんな感じのボスになったのではないかというような、堂々たる風情。あるいは恋人が真彩希帆だったなら、このように出世したのかもしれないと思わせるようなIF世界の劉衛強。二次創作欲を掻き立てられる作品とキャラクターだと思っていたが、公式がスピンオフを出してくるとは。これがバンドネオンの劉なのかどうかは問題ではない。劉衛強という名前がついていることが重要なのだ。劉衛強は概念なので。
衣装はシンプルながら、紅の彩風さん、青の彩凪さん、黒の望海さん&真彩ちゃんと完璧な配色。オールバック気味のタイトなヘアスタイルに前髪と後頭部はちょっと緩めでダンスに合わせて揺れるのがなんとも色っぽい。髪色が明るいのもまた良い。劉大人。この劉は死ななそうだし女も死なせない。宝塚のお約束どおり彩風さんが銃を向けるも結末は不明。銃声から流れるような次の場面への転換も良い。生田先生、セットの使い方と場面転換がこなれている。私は未だにひかりふるの斜め線セットと衣装の虜です。
次にいくと思いきやまだ大世界です。終始振り付けがかっこよくて10回くらい「ここ!!!!」と思ったのだがそのたびに気絶していたので何も覚えていない。最初の指カウントダウンのところと椅子でリズムとっているところとチャイナ娘との絡みと……。望海さんのダンスってこんなに良かったっけ。リズム感があるからそういう振りが決まるんだろうか。ドン・ジュアンの命を燃やすかのようなダンスとはまた違った余裕のあるかっこよさ、芝居で言うなら『はばたけ黄金の翼よ』のヴィットリオ様のような圧倒的覇者感。拷問されても最後には勝つタイプの男。望海さん、決して身長が高いとか体格がいいわけではないのだが、お顔立ちの派手さや手指の長さのお陰でそう見せようとするときはとびきりゴージャスに見える。なおそうでないとき(全てを失って Having lost everything、My Mother Bore Meなど)は哀れを催すほど華奢に見える。結局お芝居がうまいので、見せ方をコントロールしているのだろう。何が言いたいかと言うと、この場面は望海さんの中で強い劉衛強なのだな、と思ったということです。望海さんが劉衛強という名前を見て自分の中で解釈した末に表れた劉衛強を観れたというだけで、後悔は全て吹き飛んだ。ありがとう2021年。
受け取る情報量が多いのに体感10秒、時空の歪みを感じた大世界。次はちゃんと気絶した記憶ではなく良かった振りや表情を覚えていたい。雪組娘役陣は皆スタイルがよくてチャイナドレス映えしていたし彩彩もすごかったらしいので、ここだけでいいからあと500回観せてくれないですかね???
真彩ちゃん、彩風さんとのタンゴも最高。真彩ちゃんを取り合う場面なのに、無駄に妖しいのはなぜなのか。真彩ちゃんも取り合われるだけの女じゃない、ちゃんと強い女ですごくかっこよかった。二人を押しのけて前に出るところ、真彩様。ラップも巧すぎかっこよすぎ美声すぎだったんだけど、如何せん目が足りなくて劉衛強に釘付けなのでちゃんと見れなかったのが心残り。といいつつ多分次も見れないので、BDのスターアングルに一縷の望みを託す。真彩ちゃんの高音が美しいのは言わずもがななんだけど、低音も力強いのに荒々しくなく澄んだ歌声なのがさすが、七色の天使の声というか、女神の声。雪組の皇后。真彩ちゃんのラップをBGMに踊る望海彩風彩凪、ちょっと贅沢すぎる。やっぱりここだけでいいのであと1000回観せてくれませんか???
多分プロローグは菅野よう子さん作曲なんだろうな、と思った程度の初見時だったが、ここは確信した。なんか宝塚っぽくない、という粒度の粗い直感で。
呪われた石と恐れられ生きる、と不敵に歌っていた宝石・真彩ちゃんの、人間の醜さに絶望したかのような絶唱に鳥肌。望海さんも真彩ちゃんも歌声が本当にドラマティックで壮大でそこが好きです。退団後は、俳優でも歌手でもなく絶対絶対ミュージカル俳優になってほしい。
盗賊(ターバン無しver)、かっこいい。ここも宝塚のお約束で二人が歌って倒れてる皆が再生するやつだな……と思いつつ、この退団仕様のシーンに頑なに黒を使ってくるところに生田先生の並々ならぬこだわりを感じた。歌詞にも希望とか光あふれる道とか、だいきほ仕様の言葉が散りばめられていて聴いてるだけで涙が出そう。君の最後を俺が奪おう、悲恋続きのコンビだっただけになんとも感慨深いものがある。スケールの大きさと繊細さを兼ね備えた至福のデュエット、それでも「奪う」という表現になるところが望海さんらしさだなあ、と思うなど。次期コンビの彩風さん、朝月希和ちゃんがお揃いの白い衣装なのも好対照で良かった。あくまでこの二人は光属性を貫き通すんですね、生田先生。
黒燕尾はなんとなく予想していたとおり、飾りなしのシンプルなもの。客席に向いたライト越しに銀橋の真ん中に立つ望海さんの後ろ姿は息を呑む美しさ。息遣いが聞こえるほどの静けさの中で踊る姿がただただ圧巻で心臓を掴まれてしまった。最後の黒燕尾ってどうしてこんなに清廉なんだろう。光る青い薔薇を慈しむように持っている指先まで美しくて、宝塚の男役ここにありという佇まい。望海さんのダンスってこんなに良かったっけ。今まで何を観ていたんだ、私。
青い薔薇と青いドレスの娘役さんのバランスも良い。全体を通して色使いがすごく好きなショーだった。ここで宝石じゃないのはやっぱり最後は盗賊が奪ったから?後からプログラムを読んで、一人の男の旅が終わろうとしている、という解説にぐっときた。青い薔薇の花言葉は「夢かなう」、スターとしては育てられたけどトップとはみなされていなかったであろう(なんの根拠もない私の推察です)望海さんの宝塚人生と、『ファントム』との縁を思い起こさずにはいられない演出。男役の群舞でも、全員が同じ黒燕尾の中で薔薇がアクセントになっているのがなんとも粋で、望海さんの雪組の黒燕尾を必死で目に焼き付けた。
そしてデュエットダンス。真彩ちゃんが白いドレスで出てきた瞬間から、ここで白か……!と感無量に。朝美さん、彩凪さん、そして彩風さんのリフトと同時に大階段の望海さんにライトが当たり、拍手が沸き起こる。『Now! Zoom Me!!』を思い出すような、正統派男役&娘役の佇まいを最後に持ってくるなんて泣けと言ってるようなもの。
そして真彩ちゃんが階段を駆け上がり、二人で手を取って降りてくるところで、向かい合う真彩ちゃんがあんまりにも幸せそうな笑顔をしているのを見て涙が出た。謎の女も宝石もどちらかと言えば大人っぽい雰囲気なので、素の真彩ちゃんというか、少女のような純真な笑顔があまりにも眩しすぎたのと、二人の歴史と、こんな世の中の色々と、あらゆる感情が渦巻いて視界が滲んだけど、マスクの下で歯を食いしばりながら凝視。ワンフレーズくらい歌うかな、と思ったけど歌も影ソロもなしで正真正銘のデュエットダンス。ロマンチックで文句なしに美しかった。銀橋に出てきて客席に向かって礼をするところ、多分皆同じ気持ちで大拍手していた、と思う。
フィナーレ、エトワールの有栖妃華ちゃんは文句なしの美声で堂々とした階段降り。シルクロード全体としては色モノというか変わり種だと思うんだけど、デュエットダンスとかここでしっかり上手な人を配するあたり、宝塚のお約束としての要所を押さえていて良かった。
男役さんの衣装もちょっと変わっているけど、娘役の砂色ドレスと相まって全体としての色合いが綺麗に見えて個人的には好き。ロケット衣装が青なのも差し色っぽくて良かった。シャンシャンは青い宝石だと思うのだが、毎回雪組ってシャンシャンだけ妙に安っぽいというか、しょぼいことが多い気がして(『Gato Bonito!!』にいたっては猫じゃらしだった)、今回も例に漏れず……。まあそんな瑣末なことが気になる程度には他に文句のつけようがないくらい良いショーでした。
望海さんの最後のパレード衣装は金色。たしか『”D”ramatic S!』『SUPER VOYAGER!』『Music Revolution!』(ショー作品で「!」がつかないのはこのシルクロードだけ……?)はパレードが白い衣装だったと思う。退団後に主演の舞台があるとしても、こんなにギラギラで大羽根を背負って華やかなパレードをすることはもうないのだな……と思うともうこの舞台上の全てをなんとしても目に焼き付けなくては、という気持ちになってこの5分で視力が上がったのではというくらいずっと目を凝らしていた。そういえば、『SUPER VOYAGER!』のパレードでソロを歌う望海さんを初めて観たとき心の底から、ああトップになったんだな、と実感したことを思い出して、最後の「運命のアラベスク」で鳥肌が立った。どこからこんなに荘厳で深みのある声が出るんだろう?豪華な衣装、芝居仕立てのシーン、文句なしにかっこいいダンス、真彩ちゃんとのデュエットと改めて望海さんの魅力を存分に堪能できたショーだったけれど、最後のワンフレーズでしっかり心を掴みにくるところ、全く敵わないな、と思う。この調子で、まだ知らぬ最後の旅路の終わりの瞬間まで好きを更新して追いかけて行きたいし、そうさせてくれると信じている。